磁石の性質やくっつく仕組みとは?永久磁石と電磁石の違いも解説

小学校などで磁石について学んだり、磁石を使って遊んだりした経験があると思います。しかし、大人になってから磁石の仕組みについて深く考える機会は少ないかもしれません。「なぜくっついたり反発したりするのか」を改めて知りたいという方もいるのではないでしょうか。
今回は、磁石の仕組みや磁力の働きについて詳しく解説します。また日常生活の中で磁石がどのように使われているのか、活用例も紹介します。
~目次~
磁石がくっついたり反発したりする仕組み
磁石同士が引き合う力を「磁力」といい、磁力には「吸引力」(引きつけ合う力)と「斥力」(反発する力)といった2種類の性質が含まれます。磁石にはS極とN極と呼ばれる2つの磁極が存在し、異なる磁極では吸着し合い、同じ磁極では反発します。

また、磁力が働く方向を示すのが「磁力線」で、磁力線はN極からS極へと向かうのが特徴です。同じ磁力の流れを作れば磁石は結合し、そうでなければ離れようとします。この吸引力と斥力が、磁石同士がくっついたり反発したりする仕組みです。

なお、大きな磁石を細かく砕いてどんなに小さくしたとしても、磁力は失われません。その理由は1つの磁石には必ずN極とS極の両極ができるようになっているためです。どれだけN極とS極に分けようとしても、「N極だけの磁石」「S極だけの磁石」は作れません。この仕組みによって、どんなに小さな磁石ができても、引き合ったり反発したりする性質が継続します。
磁力は電子の運動によって生み出される
磁力とはそもそも、物質を構成する「原子」の中に存在する「電子」の動きによって発生します。
原子は物質を構成する基本的な単位であり、その大きさは1000万分の1ミリメートルほどで肉眼では観察できません。原子の中心には「原子核」があり、その周りを電子と呼ばれる小さな粒子が飛び回っています。
電子は電気を帯びており、この電子の回転(スピン)によって磁力が生まれます。ただし、原子核の周りを回るだけでは弱い磁力しか発生しません。電子がスピンして初めて強い磁力が生じると考えられています。
強い磁場が作られやすい性質をもつのは鉄です。鉄はほかの金属よりも電子の回転方向がそろいやすいため、磁石に引き寄せられます。
磁石は大きく永久磁石と電磁石に分けられる
磁石には大きく分けて「永久磁石」と「電磁石」の2種類があり、どちらも鉄やニッケルといった金属を引きつけます。
永久磁石の仕組み
永久磁石は、鉄などの強磁性体を材料とし、外部からの影響を受けることなく磁力を長期間保てる磁石のことです。
たとえ砕けても、その破片ごとにそれぞれ新しいN極とS極を持ち、磁力を帯びます。
しかし、永久磁石は加工する前から磁力を有しているわけではありません。
磁気を帯びさせるためには、電流を流すことで、磁石となる素材を磁化させる必要があります。
一度電流を流すことで、内部の磁区が一定方向になり、永久磁石として使用できるようになるのです。
なお、磁化とは、磁石でなぞった針が磁石化するように、通常磁力をもたない金属が磁界内に置かれることで磁石の性質を示す現象のことをいいます。
電磁石の仕組み
電磁石は、電流を流したときだけ一時的に磁力をもつもので、止めると磁力を失います。
電磁石の磁力は、電流の強さやコイルの巻き数、磁場の密度などによって異なるため、磁力を強めたい場合は巻き数を増やしたり、磁場の密度を高めたりするといいでしょう。
また、電流の向きを変えることでS極とN極の向きを変えることができます。そのため、一定の場面で強い磁力が必要な場合におすすめです。
以下の表は両者の異なる点と合わせて、それぞれの特徴についてまとめたものです。
磁石の種類 | 永久磁石 | 電磁石 |
---|---|---|
特徴 | N極とS極があり、一定方向に磁場を発生させ、長時間磁力を維持できる。 | 電流が流れているときだけ磁性を持ち、電流の強弱で調整することが可能。 |
応用例 | 強力マグネットや自動車、医療機器など。(外部の影響を受けずに一貫して磁力を発生) | 電気モーターや発電機、電子機器。(電流の制御により柔軟な利用が可能) |
磁石の原理を活用することで、新たな磁石を生み出すことも可能です。たとえば電磁石が最大の磁性を持つと、強力な永久磁石よりも強いとされ、応用技術の研究が進められています。永久磁石についても、持続可能な社会にふさわしい高性能磁石の開発が期待されています。
永久磁石の種類
永久磁石は1種類だけではなく、使用する原材料によってネオジム磁石やフェライト磁石、アルニコ磁石などに分類されます。
・ネオジム磁石
ネオジム磁石は、レアアース磁石の1つです。
鉄やボロン、ネオジムといった元素から生み出されたもので、現在最も強い磁力を有する永久磁石として知られています。
なお、使用可能温度は約80℃で、これ以上の高温の環境では磁力が下がる特性もあります。
主な用途としては、パソコンや携帯電話、スピーカーや電動モーターなどが挙げられます。
・フェライト磁石
フェライト磁石は、酸化鉄を主な原料とした、世界中で最も使用されている永久磁石です。
磁気は弱いものの、比較的磁気性が安定しており、耐食性や耐摩耗性にも優れています。また、耐熱温度が高く、約300℃まで使用可能なのが特徴です。
材料費やコストが比較的安く、音響機器や電子機器、玩具や汎用モーターなどさまざまな用途で使用されています。
マグネットシートキングのマグネットは、フェライト磁石を使用しています。車やバイクに貼り付けて走行できたり、冷蔵庫などに貼るような販促グッズとして活用ができます。
マグネットシートキングを見る・アルニコ磁石
アルニコ磁石は、アルミニウムやニッケル、コバルトといった合金から作られる磁石です。
高温環境に強く、約450℃〜500℃まで使用可能なため、20世紀半ば頃までは主流として使用されていました。
日常生活で磁石の仕組みが活用されている例
磁石は、日常生活のあらゆるものに活用されています。単体で使用する場合やくっつけることを目的とした使い方には馴染みがあるかもしれませんが、普段使っている機器などに磁石が使われていることは意外に気づかないかもしれません。磁石は自動車や家電製品、電子機器、医療機器、発電機など幅広い分野に応用されています。最後に、磁石が活用されている例を見ていきましょう。
・方位磁針
方位磁針は地球の磁場を利用して方向を示す機器です。古くから航海や探検に使われ、現代でもアウトドア活動などで広く活用されています。
方位磁針が機能するのは地球自体が巨大な磁石であり、北極がS極、南極がN極となっているためです。軽い磁石で作られた方位磁針の針は地球の磁力に引きつけられ、赤く記されたN極が北、S極が南を指します。
少し混乱しやすい「N極」と「S極」ですが、「地球の北極はS極だから方位磁針のN極が吸引される」と覚えておきましょう。
・電子レンジ
電子レンジはマグネトロンと呼ばれる装置によって動作します。マグネトロンに使われる「フェライト磁石」が磁界を生成し、庫内にマイクロ波を発生させます。このマイクロ波が食品中の水分を振動させ、そこで生じたエネルギーが食品を温めてくれる仕組みです。
・携帯電話・スマートフォン
携帯電話やスマ―トフォンのスピーカーやバイブレーターにも磁石が利用されています。スピーカーでは、振動板を磁石で振動させることで音を発生させます。バイブレーターでは、振動モーター内に配置された磁石が回転し、振動を生じて携帯電話をバイブレーションさせる仕組みです。
・自動車
ハイブリッド車、電気自動車などのモーターに使用されているのが、高性能磁石であるネオジム磁石です。ネオジム磁石は、一度くっついたら離れないほどの強力な磁力があり、保磁力に優れています。
燃費や安全性を良くする目的で1台あたり数十個の磁石が使われており、高級車では1台につき使用量が100個近くになるものもあるようです。また、車のワイパーやカーナビ、オーディオ類などにも磁石が使用されており、磁石は自動車にとって重要な存在となっています。
・風力発電
磁石は風力発電でも活用されています。風力発電は風によって回転する風車の動力を発電機に伝え、そこで発電をおこなう仕組みがもとになっています。風力発電機では、ローター内に巨大な永久磁石を配置し、磁石が回転することで効率的な発電が可能となります。
このほかにも、意外に気づかない場所で磁石が使われている場合があります。磁石の仕組みを理解したら、磁石の用途や重要性について調べてみるのもよいでしょう。